奈良県奈良市にある池泉回遊式の日本庭園。江戸時代作庭の前園と明治時代作庭の後園、雰囲気が異なる庭が合わさった構成になっています。また、園内に美術館を併設しているのも特徴。
周辺は東大寺や興福寺をはじめとした寺社仏閣や、奈良博物館などの文化施設があり、一緒に楽しめるのも魅力です。
前園を眺めながら清秀庵の前を通り、後園を一周して、再び前園に戻ってくる順序になっています。順路に無駄がなく、逆行する人も少ないのでストレスなく園内を巡れます。
ここでは順路通りに主な見どころを紹介します。
正門から入って、しばらく砂利道の幅広い道を歩きます。初夏にはツツジが綺麗です。
右手には食事のほかに抹茶も頼める食事処の三秀への入口もあります。
左手に大屋根の建物が見えてきますが、こちらが寧楽(ねいらく)美術館。東洋の古美術品が展示されています。美術館入館料は日本庭園の入園料に含まれているので、帰りに寄るとよいでしょう。
受付で入園料を払って、向かって右手にある案内所前の門から庭園に入ります。
門から庭園に入るとすぐ茅葺屋根の三秀亭と池を一望できます。池側に降りたくなりますが、三秀亭には帰りにも寄るので、ここは順路通り奥の後園へと向かいます。
案内所の建物にくっつくかのように建っている茶席。周囲の意匠や花木が美しいです。
明治時代に建てられた茅葺屋根の建物の氷心亭(ひょうしんてい)。建物横にある狭い路地を歩いていきます。
古いタイプの薄いガラス窓や渡り廊下、藤棚などが見所です。
視線が遮られた狭い路地から、いきなり開放感のある景色が広がります。ここが後園です。
人工の盛り土を山に見立てた築山(つきやま)式の池泉回遊式庭園で、若草山や東大寺南門など周辺の景色を借景にしたスケール感のある風景です。依水園を代表する景観といえるでしょう。
柳生一族の菩提寺である柳生堂。建物の前には水の流れがあります。
また、初夏には建物や水の流れ周辺をツツジの花が彩ります。
池には中島や小さな橋、沢渡り、流れ込む水の流れなどがあり変化に富んでいます。
氷心亭前の広場からの眺めを意識しつつも、場面場面でも見ごたえのある景色が見られます。
水車小屋には小さな滝があり、周辺の樹木と共に雰囲気のよい空間になっています。
築山の裏側も池や水の流れの周囲に花木やモミジなどが植えられ、散策が楽しい空間になっています。一部、広々とした場所もあるので一息つくのもよいでしょう。
かつてあった茶室の露地の一部である寄付(よりつき、茶会に招かれた客が最初に寄る場所)。
周辺は苔が美しいです。
江戸時代に建てられた小さな茶室の挺秀軒(ていしゅうけん)。
内装は江戸時代のまま保存されているとのことです。
池に中島を配し、池の周囲には灯籠が各所に置かれています。後園の比較的自由で自然な雰囲気に比べると、前園は格式のある落ち着いた印象です。
ここから案内所に戻れます。帰りに寧楽美術館に寄っていきましょう。さらに、余裕があれば食事処の三秀、隣にある庭園の吉城園に寄って行くのもよいでしょう。
場所
奈良県奈良市水門町74
交通手段
■公共交通機関
近鉄奈良線「近鉄奈良」駅より徒歩約15分。
JR奈良駅や近鉄奈良駅からバスの便もあります。
■車
公共交通機関利用推奨。
※専用の駐車場なし。車利用の場合は周辺の県営駐車場を利用。
入場料・休館日・開園時間は下記URLを参照
URL:https://isuien.or.jp/
庭園デザイン:★★★★
周囲が見えず落ち着いた空間の前園と、借景を取り入れた伸び伸びとした雰囲気の後園の両方が楽しめます。また、前園と後園の間はいったん狭い路地を通るため、変化の違いをより感じられるようになっています。
なかでも、後園は明治以降の築造とあって、水の流れや比較的自由なデザインを取り入れた、自然主義的な作庭が楽しめるため個人的に好みです。
植物充実度:★★★
日本庭園によく見られるマツやカエデ類、ツツジなどの植栽が多いです。
大きな植物の見所でいえば、ツツジが咲き新緑が眩しい春から初夏、晩秋のカエデ類の紅葉が特に美しいですが、初夏から梅雨の苔も見所があります。
管理状態は良好です。
娯楽度:★★★★
紅葉の時期は、庭園や植物が特別好きでなくても楽しめます。ツツジの時期も良いでしょう。それ以外の季節はゆったり散策するのに適しています。
美術館は青銅器や陶磁器といったやや渋めな展示。三秀亭では抹茶等も頼めます。
周辺には東大寺や春日大社といった寺社仏閣のほか、奈良国立博物館等の文化施設、他にも奈良公園や若草山もあり、一日では巡りきれないほどの観光施設があります。京都に比べ、ひどく混雑することが少ないのも良い点です。
混雑度:★★★
周辺環境ゆえに観光客が多いですが、庭園はメインストリートからやや外れているためか、それほど混雑感は強くありません。秋の紅葉の時期はやや混雑します。
園内はやや広く、オープンスペースも比較的あります。
交通の便:★★★★★
公共交通機関の場合、近鉄奈良駅から少し距離があるものの、途中の歩道が広く歩きやすいので問題は少ないでしょう。バスの便もあり、JR奈良駅からならバスを利用したほうが良いでしょう。
車の場合、公式でアナウンスされていないので推奨はしませんが、周辺の県営駐車場に止めれば車で行くことも可能です。観光シーズンは周辺道路が渋滞しやすいので注意。
総合満足度:★★★★
前園と後園の異なる個性を持つ日本庭園。ただ、依水園と名づけられたのが後園が造られたときというように、メインはやはり自然主義的な庭園である後園。築山と水の流れ、借景を合わせた景色は美しく、奈良を代表する日本庭園といえます。
備考:隣にある庭園の吉城園とセットで滞在時間を考えておきましょう。庭園観賞のみなら合わせて1時間程度は最低欲しいです。
遠方から訪れる場合のお勧めの季節
晩春(ツツジ)
初夏〜秋(コケ、スイレン)
晩秋(紅葉)