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花と緑のエッセイ

花と緑のエッセイ

千葉市花の美術館大規模改修工事における問題について

■更新履歴
2024年1月記事作成。
2024年2月記事更新。
2024年7月記事更新(アトリウム棟・温室棟オープンが夏頃に変更になりました)

2022年の春より大規模改修工事が行われている稲毛海浜公園内にある千葉市花の美術館について、2023年10月プレオープン後のリニューアルした姿が問題になっているようです。
1995年(平成7年)に建てられた千葉市花の美術館は設備の老朽化が激しく、大規模な改修が必要だったのは分かりますが、どのような経緯で、どのような問題が発生しているのか調べてみました。

NHK千葉放送局の記事が問題を知る発端でした。
要約すると、美術館の前庭にあった花壇の大部分が撤去され、代わりにドッグランになっている。その理由は管理運営方式の変更により、収益を重視する姿勢に変わったためとのことです。

千葉市花の美術館のこれまでの経緯

まずは、大規模改修前はどうだったのか、そしてプレオープン後の姿はどうなっているのか、私が訪れた際の写真や思い出を交えて確認していきたいと思います。

昔の千葉市花の美術館

在りし日の千葉市花の美術館
在りし日の千葉市花の美術館中庭の池
15年以上前から訪れていた千葉市花の美術館には様々な思い出があります。
写真1枚目は最古の写真。2006年の春バラの季節で、見物客も多く賑わっています。
写真2枚目は中庭にまだ池があったころ。東日本大震災の際に水漏れが発生し、その後に花壇として改修されてしまったため、池が復活することはありませんでした。
この池があった時代はヤシや東屋のためか南国風な印象が強かったような思い出。

三陽メディアフラワーミュージアム時代〜休館

三陽メディアフラワーミュージアム時代の中庭
2013年初頭に千葉市に本社のある印刷会社の三陽メディア株式会社が命名権を得て、2021年春までの間「三陽メディアフラワーミュージアム」と呼ばれていました。このころは中庭が花壇に改修されたり、後庭のローズガーデンが整備されたりで、より洗練されてきたような気がしました。
2021年春に命名権を終了し、千葉市花の美術館に戻った後にしばらくして大規模改修する旨の知らせがあり、2022年の春に長期休館になりました。

大規模改修前の前庭の様子

以前の前庭の様子
以前の前庭の様子
以前の前庭の様子(建物屋上から)
大規模改修前の前庭は広々とした敷地に春はナノハナやアイスランドポピー、秋はコスモスなど一年草の草花を中心に四季折々の花が咲き、様々なテーマで花壇がデザインされているのも特徴でした。
冬や真夏などの閑散期はあったものの、多くの市民に憩いの場として親しまれていたと思います。

では、現在の前庭はどうなっているのか?

■令和5年10月28日〜令和6年1月28日までのプレオープン時。
プレオープンの様子

■2024年1月29日更新分、現在はグランドオープンに向けて準備中。
千葉市 花の美術館前庭のドッグランプレオープン期間終了のお知らせ

いずれも各公式サイトを引用。
花壇はほとんどなくなり、ネットを張った区画に大きなドッグランが設置されていました。

これだけでみると民間事業者はひどい!花壇を戻せ!と思われる方もいるかもしれません。
私もNHKの記事を見つけた時、見出しと冒頭文の時点ではそれに近い思いをもちました。
しかし、この問題の原因はもう少し深読みする必要がありました。

どうしてこうなったのか?

NHKの記事にもある通り、千葉市が大規模改修を機に、施設の運営方法を「指定管理」という通常の委託から「設置管理許可」に変更したことが大きな原因となっています。指定管理よりも設置管理許可の方が民間事業者はより自由な運営が可能です。一方で、設置管理許可の場合は委託料が支払われず独立採算で事業を運営していかなければなりません。

■設置管理許可のメリットを分かりやすく書くと下記の通り。
・公園管理者から民間事業者への委託料支払が発生しない。
・公園管理者が施設の改修や整備の費用負担をしなくてよい。
・公園管理者は民間事業者から敷地や施設の使用料を得ることができる。
・民間事業者は公園管理者の許可を受ければ、ある程度自由な運営が可能。

■設置管理許可のデメリットを分かりやすく書くと下記の通り。
・民間事業者は施設の委託料を受け取れず、改修整備費用や使用料も負担しなければならない。
・民間事業者が収益を重視するあまり、公園管理者や市民(※)にとって望ましい運営がなされない場合がある。
※今回の場合はドッグランを歓迎する市民もいることを考慮したい。

今回のケースは細かい契約の違いはあるかもしれませんが、公園管理者は千葉市、市民は千葉市民と読み替えてよいかと思います。
驚いたことに、非常に千葉市側にメリットの多い仕組みとなっています。
千葉市は花の美術館運営費(年間1億円以上とのこと)を浮かすことができるばかりか、使用料まで得られるのです。

以前の花の美術館のままだと、民間事業者の負担が重すぎでは…。

大規模改修工事前の前庭は無料。美術館建物の入場料は300円でした。

ボランティアでもない民間事業者は、借り受けた施設で運営維持の収益を得なければなりません。
そのためには当然、集客・集金できる施設が必要となるわけです。
NHK記事の民間事業者インタビューからも、お金を生まない前庭花壇の花を植えている場合ではない、という思いが伝わってきます。

花の美術館本館の改修によって施設の中身がどう変わるかにもよりますが、花と植物(+犬)を中心としたコンセプトを維持した場合、大幅な美術館入場料の値上げが可能かどうかは怪しいところです。

むしろ、花の美術館の温室等の維持管理を考えると、計画にある本館入館料やドッグラン、バーベキュー施設等で本当に独立採算がとれるのか心配になるレベルです。
バーベキュー施設ができる後庭はもちろん、花の美術館本館内も光熱費の削減や、収益を得るための改修によって植物展示の大幅な縮小が行われることが考えられます。

私見

民間事業者の姿勢が一方的な問題ではないことが分かったかと思います。
では、問題の根底は何なのか。

それは千葉市が「千葉市花の美術館」を将来どうしたいのか。
そのビジョンを明確に示せなかったことにあると思います。

千葉市は花の美術館を市民の憩いの場として、また緑化啓蒙の場所として維持したいと本気で考えていたのでしょうか?設置管理許可の仕組みを考えると大いに疑問があります。
どう考えても民間事業者は収益を優先に考えざるを得ないし、そのことを千葉市が理解していなかったはずはありません。改修前の収支は大幅な赤字だったはずですから。

一方で、花の美術館という名前を残しつつ、大規模改修とうたっています。
内情は分かりませんが、花の美術館という名前を残すことは千葉市の意向だと思われます。
上記の根拠はこちらにある千葉市側のグランドオープンのイメージからも察せられます。

民間事業者に「花を展示してほしい」という、ある程度の忖度を求めていたのではないでしょうか。しかし、この設置管理許可の仕組みを考えれば難しい配慮だと思います。

今の仕組みのままであれば「花の美術館は閉館」とするべきだったのかもしれません。
稲毛海浜公園の新マスタープランに合わせて、費用負担軽減を行いつつ、賑わいを作り出す施設として刷新すると市民に訴えれば良かったのです。その代わり花や植物はほとんどなくなりますと。
個人的には非常に残念ですが、大規模改修前の収支を示せば、仕方ないと納得する市民も多かったかもしれません。

市民の憩いの場、緑化啓蒙の場所として維持したかったのであれば、大規模改修は主に温室を中心として光熱費の削減などを行い、持続可能な施設としたうえで、従来の指定管理方式を維持すべきだったのではないでしょうか(ただ、この形は稲毛海浜公園の新マスタープランとは相いれないものであり、現実的ではなかったのかもしれません)。

懸念は多いものの「花の美術館」という名を残したことに、花の施設として残したいという思いを千葉市は捨て去ってはいないと感じます。そこにまだ可能性を感じています。

全面オープン間近で後戻りできないのだから、お互いの妥協点を探るしかないでしょうが、千葉市は民間事業者に「収益を犠牲にしてでも花を植えて」とは強く言えないはずです。
でも、まだできることはあると思います。使用料を減免する代わりに一定レベルの植栽を求めるとか、あるいは植栽管理に市民を巻き込んでも良いと思います。

本来、設置管理許可という仕組みは民間事業者に丸投げするものではないはずです。
各地にある花と緑の施設成功例を参考にしつつ、千葉市には頑張って欲しいと思っています。

2024年夏のグランドオープンの際に訪れて、この記事をまた更新します。
その際は嬉しい報告ができればよいのですが…。
私も以前犬を飼っていたことがあり、犬が嫌いなわけではないのですが、今はまだ犬と花と緑が上手に融合した「花の美術館」のイメージがつかないところです。

魅力的だった改修前の千葉市花の美術館の紹介は、下記リンクからどうぞ。
千葉市花の美術館

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